2011年2月16日ーさんまー

 今日はいささか季節外れに見える食材の話である。さんまである。
 「秋刀魚」と当て字されていることから秋の味覚とされる。ところがさんまは回遊魚で、日本列島にそって長い期間をかけて南下する。夏には北海道東海岸に現れ、三陸沖、関東沖を通過するのが秋、紀伊半島沖には冬に現れる。さんまとはいいながら、このあたりまで南下するとすっかり脂が落ち、形状もさらに細身になる。さんま寿司に加工される。さんまは脂がくて寿司ネタにはむかないと考える東日本の人には考えられないことだろう。そういう私も驚いた一人だ。丸干し、ひらき、みりん干しにも加工される。どれも美味であるが、特に寒風にさらしてつくられる丸干しは私の好物である。台湾の友人の話によると、台湾沖でも獲れるらしい。どのような形状になっているのか、一度見たいものだ。
 佐藤春夫(1982-1964)が1922年に発表した詩「秋刀魚の歌」を思い出す(佐藤春夫『春夫詩抄』岩波文庫所収)。この詩は大都会の片隅でひとりさんまを焼き食らう男の孤独を恋心と重ねて歌い上げた絶唱である。この詩は谷崎潤一郎夫人千代へのつのる愛を表現したことで有名だが、この詩に接した学生時代には、私はむしろ都会の秋に滴る脂の煙にむせながらさんまを焼き食らう若い男の孤独感に惹かれたものだった。今読み返してみて、望郷の思いに打たれる。彼は和歌山新宮の出身である。「青き蜜柑の酢をしたたらせて」食するならいを思い、それを自分の落とす涙に重ね合わせて嘆きを表現している。  昨年暮れに郷里の知人からさんまのみりん干しが送られてきた。紀州のみりん干しとは似て非なるものだが、美味である。食しながら郷里を思うことしきりである。

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このページは、kitanihitoが2011年2月15日 13:54に書いたブログ記事です。

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