2011年6月16日ー京大病院眼科入院の記録(9)ー

【本を読めない日々】

 入院中は本は一切読めなかった。たえず瞳孔を開く点眼薬が注されて、いつも目がかすんでいた。日記を書くことくらいがせいぜいのところだった。予想していたことだったから、CDを数枚持参することにし、音楽で気を紛らすことにした。
 なにをもっていくべきか。手術を待つのに楽しげな感情を昂ぶらせる楽曲は避けたほうがよいように思われた。選んだのは、M.マイスキーの演奏するJ.S.バッハの「無伴奏チェロ組曲」であった。チェロの響きは心地よい。もし楽器を習熟できるものなら、そのための時間と経済的余裕が与えられるなら、迷わずチェロを選んだであろう。長い人生の中で出会えた名演奏もチェロが多かったように思う。
 バッハがオルガンの名手であったことはよく知られている。この楽器もこよなく愛したのではないだろうか。その響きの中に彼のその愛と祈りにも似た想念の高まりが感じ取られて感動する。感動は演奏するチェリストのこの曲への思い入れと重ね合わされてさらに増幅される。
 この曲は演奏会で聴くよりもひとりイヤホンやヘッドホンで聞くのが聴く方が心に響く。
 19世紀末にパブロ・カザルスによって再発見され、その価値が見直されて以来、この曲は名だたるチェリストたち指す最高峰となった。あらためてカザルスの演奏を聴いてみたくなった。
 この入院は自分を省みるよい体験となった。
 

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