2011年6月15日ー京大病院眼科入院の記録(8)ー

【入浴】

 病棟には男女それぞれのために浴室が準備されている。手術の前日には入浴がすすめられる。向かいのベッドのTさんが一緒に入ることを申し出てくれた。83歳の方で加齢黄斑変性症でほぼ失明に近い状態と言う。容態の進行をくい止められる可能性にかけて眼球に注射するというなんとも恐ろしい治療を受けるために2ヶ月に一度入院されるのだという。
 背中を流してくれた。私も致しましょうと申し出たのだが誇示された。あまりのうれしさに涙が溢れそうになった。今回の入院で私が得たかけがえのない体験であった。
 背中を流してくれる Tさんの身体をみて、私は半世紀前の父との一時を思い出していた。
 私の24歳の夏のことであった。その前の年父は札幌で胃癌の手術を受け、医者はあと半年の命と家族に宣告していた。1年ほど健康に過ごしたが、病には打ち勝つことが出来ず再発した。知らせを 受けて私は直ちに帰郷したが、突然帰ってきた私を父はいぶかった。癌であることを知らなかった父はいずれ回復すると信じていた。少しの間滞在して帰らざるを得なかった。帰る日の前夜、父と近くの銭湯に出かけた。痩せ細り手術の傷跡がなまなましく残る父の身体をしたのは、その日が最後であった。父も私の背中を流してくれたと思う。

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このページは、kitanihitoが2011年6月15日 15:37に書いたブログ記事です。

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