2011年7月アーカイブ

 最近よく買いに出かけるパン屋さんで懐かしい発見があった。袋に入った「パンの端」である。食パンの端の切り落としやサンドウィッチを作る際に出来る「耳」である。私が学生の頃には「パンの耳」と読んでいたと思う。繁華街にある喫茶店から寮生がもらい受け空腹をしのぐ足しにしていた。
 店頭で見かけるのはめずらしいことだ。いつものように好奇心の虫が騒ぎ出して、レジの女性に訊ねてみた。「私の学生時代には飢えをしのぐのに喫茶店の裏口で頂いていたものが、いまでもあるのですね」「こういう御時世ですからけっこうもりにこられますよ」。この店では無料で提供し、その代わりに東日本大震災に30円の募金を求めている。
 「香ばしく焼き上がったパンの一番おいしい部分を捨てるなんてもったいない話ですね」「どうしてこのような習慣ができたのでしょうね」「やわかいものを好んで食する日本人の食習慣が生み出したものでしょう」。
 私は別の考えを持っていた。学生時代にあの喫茶店でサンドウィッチを食し、ブルーマウンテンのコーヒーコーヒーをたしなむというのは、貧乏学生には夢のまた夢であった。「耳」のないやわらかいパンを使ったサンドウィッチは「ハイソサイエティ」の象徴のような」感じがしたものだった。このようにしてサンドウィッチを食する金持ちと「耳」を食する貧乏学生という図式ができあがった。
 このようなパン文化はイギリスから直輸入されたものか、アメリカ経由で入ってきたものか知らない。この食し方は本来はあまり上等なものではなかったと思う。1960年代にロンドンのシティーを散策していてときに目撃した光景がある。食時になると多くのサラリーマンがベンチでサンドウィッチを食していた。自宅で準備したものを紙にくるんで持参したのだろう。先日アメリカ映画で場末のガソリンスタンドに併設された食堂で客がサンドウィッチを注文するシーンガをみつけた。ウエイトレスが注文を聞く。「耳はどうする?」。客がこたえる。「つけといてくれ」。
 サンドウィッチは庶民的な食べ物だった。それが日本に輸入されたとき高級なものに作り替えられ、「耳」は切り落とされた。簡単に切り落としゴミにしてよいものだろうか。
 食することに理屈は必要ない。あれこれいわず、おいしいと言って食べたらよいと人は言うだろう。その通り。しかしそうめいえぬきびしい事情が食に関わって存在することにも注意を喚起せざるを得ない。この店とパンについてはまたいずれ書くことにしよう。
 

2011年7月6日ー大盛り、お代わりー

 2週間ほど前に目にしたことである。
 診療所の帰りに時々立ち寄る洋食屋がある。千本上立売を東に入ったところにあるお米屋さんが家族で経営する店だ。その日、修学旅行の中学生のグループがやってきた。表通りに位置していないのに、観光客らしき人々もやってくる。テレビ番組で紹介されたこともあり、観光ガイドブックブックにも載っているのだろう。
 彼らがどんな食べっぷりかじっくりと観察させて頂いた。この店はお米屋の特性を生かして銘柄米の食べ放題が売りである。小、並み、大盛りの三種類から自由に選べる。男子生徒はさっそく大盛りを注文した。この店の茶碗は家庭で使っているものより大ぶりでどんぶりよりは小さい。それにてんこ盛りで提供されている。あっといいうまに平らげた。当然お代わりをを注文した。お代わりが出てきたとき店員に本当にただですかと小さな声で訊ねたようだ。もちろんですよと言う返事にこの子はにっこりと微笑んだ。なんともその笑顔がほほえましく、心なごませられた。
 店員に聞くと、修学旅行生をグループで案内するタクシー運転手がよく連れてくるのだそうだ。そのとき運転手はこの店ではお代わりが出来ますよと教えたに違いない。その通りだったのでほっとしたのが表情に現れていた。
 レジのおばあさんに若い人の食べっぷりには感心させられますねというと、あれだけ食べてくれるとうれしいです、との返事が返ってきた。お米屋さんにとっては米をたくさん食べる人が増えることはうれしいことだ。損得抜きで食べ放題にしている意味もそこにあるのだろう。彼らが中高年になったとき、京都の神社仏閣をまわった思い出とともに、西陣の小さな食堂でおいしいご飯をおかわりして食したことを思い出すだろうか。その時あれはいまの貧しい食にくらべて至福の時であったと思い出すであろうか。彼らの時代も食が豊かであることを望みたい。あの年頃の私の食をいろいろと思い出していた。昔話は面白くない。別の機会にしよう。

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