至福の時ー「北海しまえび」と「ラインガウ・ワイン」の組み合わせー

 札幌市のS水産から時々送られてくるカタログの表紙に季節限定の「北海しまえび」の広告があった。このエビのうまさは喩えようがない。欲求を抑えがたくぼくの在宅快気祝いはこれでやろうと決め、早速注文した。贅沢なことだ。まあ一生に一度のことだから許されるだろうと思った。
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 この海産物には思い出がたくさん詰まっている。戦前の子どもの頃、いつも振り売りの女性が魚を天秤棒で担いで私の家に売りに来る。祖母キノは夫に早くに逝かれ、魚の行商で一家を支えたふりうりの彼女たちの大先輩だった。そういうこともあってか、行商の女性たちの出入りが多い家だった気がする。「エビ」もその頃によく見た海の幸だった。一升枡を使っていた。ぴちぴちと跳ね回るエビを枡に盛り上げ、「はいおまけ」といって数匹を枡に加えるのだ。彼女たちはおまけをしても損にならない程度を会得していたのだが、子どものぼくには気前のよい行為に見えた。しかし、あの頃食したエビの味は思い出せないのだ。
 戦後、大学に進んだばかりの18歳の時のことだ。当時ぼくは別海町の網元Mさんのご子息の家庭教師をしていた。その縁で夏休みに野付湾での漁に招待された。鮭定置網漁も楽しかったが、一番は「北海しまえび」漁だった。
 エビは海藻が密集する浅瀬に生息する。馬の尻尾のような形状の野付半島に遮られて野付湾はエビにとって格好の生息地である。エンジン付きの舟ではスクリューに海藻が絡み舟を操作できないから、帆掛船を使う。
野付湾.jpg あの日は雲ひとつない晴天で湾内も凪いでい
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たと記憶する。網で獲ったばかりのエビを船上で七輪を使ってくみ上げた海水でゆで上げる。美味、そうとしか表現しようがないあの味は今も忘れられない。
 あの日の陽光はドイツの初夏そのものだったことを思い出していた。ライン川を舟で旅しても、川沿いを列車でいっても、何度旅してもあの景色はドイツそのものだ。「北海しまえび」にはドイツワインがあうと勝手にきめ込んだ。ライン川中流域ラインガウのワインをはり込んだ。
 至福の時。しかもそれぞれの風土と景観を思い起こしながら賞味できるとは。生涯に一度とはいいながら、このような舌と心の贅沢をまた口実を作ってやってみたくなる。(2017.6.24)

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このページは、kitanihitoが2017年6月30日 19:21に書いたブログ記事です。

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