2019年1月アーカイブ

棒鱈礼賛

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 恒例の正月料理は12月29日夕方に出来上がり、1月5日に食べ尽くした。1週間以上も食べ続けたことになる。毎年よくも飽きずに調理し食べるものだと、あきれかえる人もいるだろう。棒鱈と海老芋を炊いたものと数の子のたれに漬けたもの、この2品が私の得意の正月料理である。これが出来上がった日から私の正月が始まる。お酒をちびちびやりながら、得もいわれぬ至福の時間が過ぎる。残念なことに、今年は旧年から風邪を持ち越しため、お酒は制限せざるをえなかった。
 なぜ棒鱈にこれほどまでにこだわるのか。まずその淡泊さが飽きを誘うことがない
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ということだろう。北半球の海に面した国々では真鱈は常食であった。脂身が少ないから乾燥して保存でき、水で戻して調理する料理も方々に存在する。関西のこの料理もこの魚の特性を生かしたものだろう。
 17世紀フランドルの画家ピーター・ブリューゲルの版画に真鱈とその乾燥の風景が登場する。「大きな魚が小さな魚を食う」という版画、当時は流行した画題だったらしく、沢山の版が存在するようだ。切り裂かれる腹から魚や貝があふれ出し、その魚も小魚を食している。この絵の寓意を正確には国は理解できないのだが、日本でも真鱈は「鱈腹食べる」という表現に示されるように大食や飽食の代名詞として使われているが、あの時代のあの地方でも真鱈は強欲のシンボルであったようだ。絵の左上に臓物を出した真鱈を木につるして乾燥している様子が描かれ、それを盗み取る真鱈男が描き込まれている。面白い絵だ。
 それにもう一つ真鱈にこだわる理由をつけ加えると、この食材に固着して私を離れがたくしている郷愁と少年時代の記憶があるからだ。
 棒鱈は真冬にはえ縄漁で漁獲される真鱈の本身だけを乾燥させたものだ。獲れた魚は加工場で開腹され、本身だけを寒風にさらして棒鱈に仕上げる。どのような食材として使われるのかはその頃は想像もつかなかった。京都に住むようになってはじめて棒鱈が関西で重宝されしかも高価な食材であることを知った。
 不思議なことに、少年の頃に真鱈の本身の部分を食した記憶はない。加工場にかごかバケツを持ってでかけ、商品化の対象にならない部位、つまり売り物にならないので捨てる部位をもらってきたものだった。頭と骨には十分すぎるくらい肉がついていたし、内臓もタラコ以外はただでもらえた。家庭での食事にはこれで十分だった。鱈ちりも白子の吸い物も美味だった。
 貧乏だからゴミをあさって食したと言うことではない。魚の生命を頂いたことに感謝し余さず食すること、あの頃はそれが当たり前のことだった。どのような食材もあまさず食するよう心がけられた。調理された食事に対する態度も同様であった。残さずに食べた。食材の近くに生き、それを余すところなく食する体験を持っていることは幸運なことだと思う。それそれの食材の美味の感覚をいまだに保持できていることも素晴らしいことだと思う。
 かって私は「食の工業化」「食のグローバル化」が私たちの生活を脅かすことについて警鐘を鳴らす短い文章を書いたことがある。人間が本来持っていた食を慎ましく周辺の生態系から得て、それをあまさず食する生活様式、そしてそれによって与えられた味覚は資本主義によって奪い去られ、グローバル資本主義の下でその簒奪は極限にまで発展した。今私たちは都市に暮らして地球上のあらゆる珍味を金さえあれば食することができるとし、これこそが豊かさの究極の表現だと勘違いするまでになっている。
  はたしてそうだろうか。安全なものを食しているか、添加物や農薬は何が使われているのか、遺伝子組み換えによるものかどうかについて知らされることもなく、そのことにこだわるでもなくまったくの無関心になっている。あまさず食しているかを知ることさえできないでいる。資源の枯渇を知らずに飽食に浸りきっている。しかも、味覚は画一的になり自分で食を選択する能力は衰えている。レストランや店の評判で味の善し悪しを決めたり、値段が高い店がうまいと勘違いしているのではないかと勘ぐりたくなることもある。
 このような食が豊かなものと言えるだろうか。私は決してそうは思わない。豊かになるためには、資本主義とグローバリゼーションから私たち人間が本来持っていた食に対する関係を取り戻さなければならないのではないか。新年にあたって、棒鱈にかかわってあれこれ考えたことをとりとめなく書き記してみた。(2019.1.20)

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