1945年7月15日(2)ーあどけない「少国民」から「少年兵」への道ー

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 私が入学したのは「小学校」ではなく「国民学校」である。1941年にそれまでの「尋常小学校」は「国民学校」と名称変更された。私はその改組の2回目の入学だった。町立花咲国民学校入学式は巨大な日章旗の下で行われた。この時の写真は最近入手したが、その大きさをみると少々気味が悪くなる。
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 この再編成の狙いは明確だった。戦時体制の下で子どもたちに今まで以上に「皇民」「臣民」意識を植え付け、戦争体制に捉え込むための装置を作り出すことにあった。そのころから「少国民」という言葉が使われ始め、国民学校は「少国民」養成の場所と化した。
 私はこの「少国民」としては初めから落第であった。国語、算数、図工はまあまあの成績で、修身では神話の世界を事実として教え込まれ、天皇の赤子として求められる歴史観と規律を徹底的にたたき込まれた。  私は暗記の能力に長けていたから、神武天皇に始まる皇統譜、教育勅語、さらには軍人勅諭、それに東条英機が原案を書いたと言われる戦陣訓に至るまで簡単にそらんじることができた。だから修身の成績はいつも「優」だった。
 どうして軍人勅諭まで教えていたのだろうか、おそらくは「本土決戦」を叫んで戦争を本土に呼び込もうとした軍部の無謀なあがきの結果だろう。子どものうちから兵士になる規律をたたき込みたかったのだ。それにもうひとつ、私のまちは、それと気がつかぬうちに最前線になり、その拠点になっていた。千島列島を防衛線とする構想はアメリカに制空権も制海権も奪われてとっくに崩壊していた。本土決戦の防衛線を北海道まで交代させて再編成せざるを得なくなっていたのだ。
  いまでも脳裏を離れない光景がある。教師(配属将校だったかもしれない)が学級の全員に将来何になるかをたずねたことがある。軍人になるという返事以外は考えられないのだが、その枠の中で考えて応えざるを得なかった。成績優秀な連中はそれなりの返事をしなければならず、 私は頭を抱えた。その頃の私は頭ばかりが異様に大きい運動神経の鈍い小さな子だった。
 そういうことで私の通信簿では「体操」はいつも最低の評価だった。体操の授業の大半は、隊列を組む練習、行進の練習だった。つまり、後の兵士たるべき能力を身につけさせるのが目的だった。私は今でも号令をかけたりかけられたりすることに抵抗感があるのは、この頃の影響なのだろうか。
 その頃屋内運動場で度々映画が上映されていた。国策映画に加えて、予科練の訓練風景を写した宣伝映画も上映されていた。『少年倶楽部』その他の雑誌も予科練の宣伝に役立っていた。七つボタンの制服は子どもには格好良すぎたし、飛行機に乗れる潜水艦に乗れることも憧れの気分を醸成させた。これに比べると陸軍は誇りっぽく、汗臭く見えたものだ。
 しかし予科練の猛特訓の風景を見せられて私の運動神経ではとてもここには志願できないと思った。さて「お前は将来何になる」という問いにどう答えるか。成績優秀な子は予科練と答えるのは当時の憧れの雰囲気からいって当然だったろう。神風特攻はまだ始まっていなかったと思う。もし始まっていれば教師はもっと生徒たちを煽り、子どもらしい憧れの気持ちをもてあそんでいたはずだ。
 子どもたちはそれほど真面目に考えて返事をした訳ではなかった。ところが私はそれとは反対に真剣に考え込んだ。予科練は到底無理だ、別の進路にしようと考えた。「佐々木、お前はどこを目指すか」、私は「陸軍幼年学校を目指します」ととっさに答えた。あまり成績のよくない子が教師の問いに「陸軍大将になります」と答えたとき、教師はこの子をあざ笑った。そのことを私は今も鮮明に記憶している。教師は言った。「お前が陸軍大將にになれるはずがない、お前がなれるのはせいぜいチンパカ大將だろう」。
 あの子の答えは子どもらしい将来への希望の表現だったのだろう。教師はそれをいじめの手段に巧みに作り替えたのだった。あの頃は教師のいじめは度を超えていた。成績の悪い子、貧乏人の子はいつも彼らの生け贄だった。最近このことを思い出すときに考えることがある。あの時かりに私が「予科練に行きます」と答えていたら、教師はどのように反応しただろう。「お前みたいに運動神経の鈍いやつが予科練の猛訓練に耐えられるはずがない、飛行機乗りは無理な話だ」、そのように嘲笑され私は深く傷ついていたかもしれない。
  霞ヶ浦の予科練習生も陸軍幼年学校もいったいどこにあるのか、何歳から入学できるのか、受験資格はどうなっているのか、なにも知らなかったし、教師も配属将校も教えはしなかった。ただ言えることは、わずか8歳の頃から兵隊になる以外に将来の選択肢はないと教え込まれていたのだ。子どもの憧れをあおり利用したのだ。なんと残酷なことではないか。

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