強制された少年兵への道ー8月15日70周年にあたってー

 倉本聰が『日本経済新聞』の「私の履歴書」に登場している。私とほぼ同じ年齢の彼が戦争体験をどのように書いてくれるか興味を持って読んだ。その5回目(8月5日付)の冒頭で、国民学校4年の時の体験を書いている。配属将校が学年全員を校庭に集め、「特攻を志願する者、一歩前へ!」と声を張り上げた。数人が前に出た、次々と生徒たちがそれに続いた。筆者もその中にいた。二人の生徒が前に出なかった。「卑怯者」と小声で言う奴がいた。倉本はは言う、本当に卑怯なのは自分なのだ、非難されるのが怖くて前に出ただけなのだと。
 私にも似た体験があることを思い出した。国民学校3年生の終わり頃か4年生の時ではなかったかと記憶する。担任の教師が、お国のためにおまえたちは将来何になる覚悟かと全員に問うた。「予科練に行きます」と私の前の何人かが答えた。私に順番が回ってきた。私はどう答えたらよいか窮した。
 予科練、正式には海軍飛行予科練習生の訓練風景の映像は戦意高揚と少年兵募集のために学校でもたびたび見せられていた。私は身体も小さく、体操は学級でいつもビリだった。走るのも駄目、鉄棒も駄目、これでは兵士は到底つとまるものではないと秘かに思っていた。その頃は、成績優秀なものは予科練に志願し、特攻隊を目指せと強要されていた。予科練の訓練など不可能だった。担任の問いに嘘も言えず、私は「陸軍幼年学校を目指します」ととっさに答えた。この学校がどんな学校かなど私は知らなかったが、予科練と答えることから逃れるために考えついた大嘘だった。
 担任は私の答えに満足したはずだ。最後に学級で成績の悪い子が答えた、「陸軍大将になります」。担任はこの子を罵倒し始めた。「おまえ見たいのが陸軍大将になれるはずがない、おまえがなれるのはせいぜいチンパカ大将だ」。彼にとっては、陸軍大将になることは将来の夢で会ったのかもしれない、そのことを率直に答えたのかもしれないし、私のように答えに窮して大嘘をついたのかもしれない。私はこのときの担任の態度が不快だった。だから鮮明に記憶している。この教師は戦後に出世して私のまち一番の小学校の校長になった。
 軍人が初等教育の現場にまで派遣され、権勢をふるっていたなどということは、戦争を知らない人たちには到底理解できないだろう。しかも、それがたとえ数年先のことであっても、10才を超えたばかりの少年に死を選ぶ選択の決断を求めるとは狂気の沙汰としか言い様がない。しかし、数年経って15才になれば、多くの少年は死への道の選択を迫られたのであった。修身の強化では白虎隊が死によって示した忠義が称揚されたのも、少年兵を強要した教育の伏線だったといえる。白虎隊の話に今でも嫌悪感を覚えるのはそのためだ。
 配属将校が国民学校にまで配置されるようになったのはいつからだろうか。彼らを配置した目的は想像できる。軍部の言う本土決戦とは、アメリカ軍を上陸させ地上戦に引き込むことであった。沖縄戦にみるように、住民を守るのではなく住民を盾として、あるいはそれ以上に戦力として利用された。配属将校の仕事は、今にして思えば児戯にも等しいものであったが、軍事教練を行い、学校組織を兵営化することは、ただ予科練や陸軍幼年学校に誘導するだけでなく、地上戦が現実のものとなったとき、現実に戦闘行為に参加させるためのものではなかったか(注1)。
  戦争を兵器の間の闘い、軍隊の間の闘いに限定するのは間違いなことはいうまでもない。私は少年たちをも戦争に駆り立て、死を強制したこの現実も戦争の狂気の最悪の姿として糾弾したいと思う。昨年夏、私は「少年兵」についてブログに書いている(注2)。あえてもう一度書き記すことにしたのは、倉本聰に触発されただけではない。昨今の政治風潮へのささやかな抵抗にもなるかと考えたからである。
 特攻を美化する人びとに言いたい。その基底には「少年兵」を作り上げる強制があったことを知るべきだ。
 戦争に行きたくないというのは利己主義だ」と主張する人びとに言いたい。死ぬことの意味を知らぬ子どもたが生きたいと願うことを表現することさえ抑圧された時代を想像したことさえないだろう。
 憲法9条を蹂躙し、「国益」「愛国」を修身復活によって教え込もうとする人びとに言いたい。あなたたちは確実に過去の過ちを繰り返す道に踏み出し始めているのだ。
(注1)私の軍事教練体験についてはすでに次に書いている。佐々木建『すり込まれている筈の風景ー私の戦争 序章ー』アマゾン・キンドルダイレクトパブリッシング、2014年8月、91ページ以下。
(注2)「少年兵に遭遇するー大津市歴史博物館の「戦争と大津」展での発見(1)www.focusglobal.org/kitanihito_blog/post-47.html
                                                                               (2015.8.15)

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