台湾を考える 台湾から考えるー小国論への道程ー

 市民の台湾を見るまなざしは多様になり,国交断絶後に顕著になった台湾無視の状況とはまったく違った交流が観察されるようになった.台湾の映画,テレビドラマが頻繁に上映され,観光や食文化の交流も盛んになっている.台湾を訪れて日本語を流ちょうに話す人の多いことから,この国に近親感を覚える人も多いようだ.
 ところが研究者の間では,台湾を専門にする人以外は関心は意外に低い.「一つの中国」論がつくりだした台湾軽視の傾向がまだ続いているように思われる.政治の分野となると状況はもっと悪くなる.中国本土の政権の威嚇的な態度に屈服しているとしかいいようがない.
 周知のように,台湾はオランダの支配,清国の進出,日本の統治を経た後,戦後は大陸から追われた蒋介石一派に支配されて1945年5月20日以来戒厳令の下での生活を余儀なくされた.1987年7月15日にようやく民主的政治体制実現の途についたのであった.この国がまともな国として評価されるようになったのはこの頃からで,20数年前からのことだ.それ以来,この国の併合を目指す中国の外交的,軍事的策略にもかかわらず,国としての体裁を整えつつあると評価されるようになっている.
 この国を訪問して観察する機会を何度か与えられた.その観察から,私は一つの新しい視点を見いだしたような気がする.小国の典型としてこの国を観察することによって,グローバル資本主義批判の新しい視点に到達できるかもしれないと考え始めているのだ.
 グローバル資本主義がつくり出す地球大的危機を克服する展望は,地球が無数の「国民国家」に細分化された現実とその下で醸成され,あるいは強要された狭い国民意識の克服なしにはありえない.
 例をいくつかあげよう.温室効果ガスの削減は緊急に解決されるべき地球大的課題であるが,国益を主張する国民国家の主張の前にたじろいでいる.各国の取り組みを総計しても,課題達成にはほど遠い.温室効果ガスにとどまらない.20年前のリオ・サミットで示された世界的熱狂は冷め,日本の現状を見る限りそこで提示された地球的課題はおろか,会議が開催されたことすら忘れ去られているように見える.
 核のない世界を求めて核兵器廃絶が主張されだしてからすでに半世紀以上が経過した.しかし,それが実現するどころか,チェルノヴィリ,福島と原爆投下にも等しい惨禍をもたらしている.それなのに,「平和利用」と称する核拡散が進み,原子力発電は地球全体に拡散している.「平和利用」の名の下に着々と軍事利用の技術と資源が集積されている今,核兵器だけでなく「平和利用」と称する技術を統制することが急務となっている.その障害となっているのは明らかに「国益」の主張である.
 地球大的課題への対応は,細胞分裂のように細分化が進む国民国家,その枠組みの中で形成される国民意識を基礎にしていては不可能であろう.国民意識はつねに自国の優位性と利益追求が前提となるからだ.
 問題解決のためには,何よりもまず国民意識を超えた地球市民意識を作り上げ,それを普及することが急務となる.それはグローバル資本主義のもとで深刻になる地球大的課題についての学習と教育,それらの課題への実践的取り組みによってしか形成されないのではないか.同時に,国民国家の内部からの改革も重要である.狭い愛国主義を基礎にした国益主義,歴史を歪曲して強制される単一民族論,同化論を克服することが必要であろう.
 強大国の挾間で存在感を示そうとする小国の現実,小国の体験にこそ偏狭な国民意識に基礎を置く国民国家の枠を乗り越える可能性と,グローバル資本主義の支配に対抗する契機が見いだせるかもしれない.国民国家を内部から変えていく試みなしには,あらゆる批判は,いかに口当たりが良いものであっても,所詮絵に描いた餅にすぎない.
 このノートは,私の台湾体験をふまえた思索の過程の産物である.ここで獲得された国民国家批判の視点が導く先はどのようなものになるのか,私にはまだ見えていない.成り行きに任せになるが,とにかく出発することにしよう.
 この小論の�,�はは台湾への旅の記録として『京都グローバリゼーション研究所通信』第2号(2007年5月),第4号(2009年9月)に発表したもので,�は私のブログ「北仁人のたわごと」に掲載したものをまとめたものである.写真を削除して文章だけを再録した.これらの3本のノートは序文を付して2011年春の地域文化学会研究会で報告する予定であったが,体調不良のため報告を断念せざるを得なかった.今回あらたに編集し,「はじめに」と「おわりに」を書き加えて公表することにした.(2012年7月21日)

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このページは、kitanihitoが2012年7月21日 21:24に書いたブログ記事です。

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