中国資本主義という怪物−富坂聡『中国の地下経済』を手にして考えたこと−

 富坂聡の『中国の地下経済』(文春新書771、2010年9月)を読んでからもう数ヶ月、その時以来考えていることを書きしるしておきたい。
 中国の権力構造、中国経済に対する関心がたかまる中で中国関連の文献が急増している。内容はどれを読んでも大同小異、のっぺらぼうの市場経済分析の手法によって中国脅威論を振りまくだけだ。その種の分析に比較すればこの書物は示唆に富んでいる。
 「地下経済」という表現に私どもは戸惑いを感じる。通常はギャングその他の闇の組織の覚醒剤、人身売買による利得や独裁者たちの隠匿資金である。それらの資金はマレーロンダリング(資金洗浄)され、血のにおいや不正の痕跡を消して公的市場に登場するか、闇市場で運用される。それらが発覚することは滅多にないからその規模がどの程度のものかはわからない。本書を読む限りでは、著者のいう「地下経済」は以上のものを含むが、むしろ中国に特異な構造と理解した方がよいようだ。著者が接触した幹部や官僚によると、中国では「地下経済」とは言わず「民間金融」と呼び、その規模は「少なくとも、表のGDPの半分近い」という(68-9ページ)。それは闇の市場ではなく、中国「第二経済」、もう一つの中国経済と捉えた方がよいとする。
 中国政府も黙認せざるを得ないこの第二経済の担い手は誰なのだろうか。急成長した中流層の蓄積資産や投機の利得だけでこれほどの経済の仕組みが短期間で作り上げられたとは考えにくい。そのかなりの部分は国外の華僑・華人資本の流入によるものではないのか。そう考えると政府の為替管理もものともせず展開される中国人環境客の最近の旺盛な購買意欲も最近メディアも報じる日本国内の土地投機も理解できる。
 そのように考えると、中国資本主義の基軸は政府と国有企業によるいわゆる国家資本主義的構造、それと進出する外国多国籍企業との癒着、この構造に投機的で流動的な民間部門が接ぎ木されているように見えるのだがどうだろう。国家資本主義的構造が民営化され、自由な企業活動ができるように規制が撤廃される可能性は少ないのではないか。党官僚や国営企業の経営者たちが利権を放棄するとは考えにくい。とすれば、中国は特異な資本主義が支配する国として続くと考えざるを得ない。
 1949年の中国革命は農民革命であった。地主制を破壊し農民に土地を分け与えることが革命の最も重要なスローガンであった。農民の権益の保護、これが至上命題であった。農村、とりわけ内陸部の状況はどうなってるのだろうか。いわゆる「格差」の基盤はどうなっているのか。中国経済を論じる人たちにはこの視点が抜け落ちているようだ。(2011.1.20)

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