ネルソン・マンデラ賛歌ー『インビヴィクトゥス』ー

  尊敬する人物を問われるなら、私は即座に迷うことなく3人をあげるだろう。非暴力主義を掲げ和解を説いたガンジー、清冽な革命への意志で生涯を貫いたゲバラ、そして赦しと和解によって現実政治を導いたマンデラである。とりわけマンデラに対する畏敬の気持は、私自身がアパルトヘイト反対の世界的流れに微力ではあるが加わったこともあって、強まるばかりである。
 公開中のクリント・イーストウッドが監督した映画『インビクタス』は、マンデラの赦しと和解の理念を明快に示して感動的である。大統領当選後の理念、理想の実現をめぐる葛藤と1995年に南アフリカで開催されたラグビー・ワールドカップにおける南ア・ナショナルチームの予想を覆す劇的な優勝の過程が重ね合わせて展開される。
 映画のタイトルになっているラテン語のinvictus(インヴィゥクトゥス)は「征服されない人」「負かすことのできない人」「負けない人」のという。映画の中でマンデラが獄中で力づけられた言葉として、ナショナルチームの主将であるフランソワ・ピニャールに示される。19世紀イギリスの詩人W・E・ヘンリー(William Ernest Henley, 1849-1903)の詩である。
 歴史がこれまでに劇的に展開されることは希有のことではないか。優勝カップを手渡すために登場したマンデラは、もはやアパルトヘイトのもとで抑圧された人びとの大統領ではなく国民的統合を体現した大統領の姿であった。
 私は1996年に現地調査のために南アを訪問したが、この歴史的事件の余韻はまだ続いていた。私も1年遅れでこの余韻に共鳴して記念グッズを買い求め、今も毎日のように利用している。
 C・イーストウッドはこれまでの作品とはまったく異質の傑作を作り上げた。そ変身ぶりは驚くことではなく、彼のうちに秘めた理想の吐露であったのだろう。マンデラを演じたモーガン・フリーマンに拍手。南ア国歌を含む音楽も素晴らしい。(2010.3.9)

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