瀬田国民学校絵日記に見る「大和撫子」教育の現実−大津市歴史博物館の「戦争と大津」展での発見(2)ー

 大津市歴史博物館の「戦争と大津」展でのもう一つの収穫は瀬田国民学校の絵日記の展示である。この絵日記は同校五年智(ち)組の女生徒7人が1944年(昭和19年)4月から翌1945年(昭和20年)3月まで書き綴ったものという。戦時下の教育を知る上で重要な記録である。こういうものが保存されていることはうれしいことだ。
IMG_0003.jpg 帰宅してから考えさせられた。私にはこの絵日記には引っかかる点が多い、多すぎるのだ。なぜ教師はこの絵日記を書かせたのか。しかも学級の生徒全員ではなく選ばれた7人に委ねたのか、絵日記は学級の全員に公表されていたののだろうか等々、疑問が次々と沸いてくる。
 男子の学級を教師(当時は正式には訓導と呼ばれていた)が支配する方法は単純明快で、天皇の超越的権威を背景にした暴力であった。学級の子どもを統制できなくなると、いつも暴力があった。女子に対してはどうだったのだろうか。7人を選んで画かせたのは、学級の中心人物を掌握して学級を統制する方法でもあったのではないだろうか。
 国民学校では、男生徒と女生徒で学級が別だった。だから私は、女生徒がどのように教育され掌握されていたのかについてまったく知識がない。「修身」という科目で、男子は兵士として天皇陛下に命を捧げることを求められた。「体操」では、隊列の組み方、行進の仕方、点呼等将来の兵士のための基礎的な訓練が行われた。最後は軍事教練の真似事にまで進んだのである。女子にはどのような教育が行われたのだろうか。日本古来の女性の美徳として「大和撫子」たれと教え込まれたことは確かであろう。そのうえで「銃後の守り」としてなにが強制されていたのか、この絵日記から学んでみたいと思った。
 しかし、この絵日記がこ子どもたちがその時々の気持ちを率直に表現しているとすることにはどうしても賛成できない。子どもでも言ってはならないこと、画いてはならないことを知っていた。「現人神」たる天皇の権威を損ねること、戦況に対する批判的な態度、出征する兵士は歓呼の声で送らねばならないこと等々について率直な疑問を呈することは、相応の罰を受けることはよく知っていた。絵日記の全部を見なければ判断できないことなのだが、その点はたくみに避けられていた筈だ。けっして「素直な」表現ではないと思う(それだけに、敗戦は私にとっては強権的な抑圧と画一的な思考からの解放であり、「自由」そのものであった)。
 そうはいいながら、私はこの絵日記を 見ながら、私のいう学校教育の「兵営化」は、地域によって、学校によって、場合によっては担任の教育理念によって微妙な違いがあったのではないかと考えている。この絵日記の学級は私の体験した北海道のはずれのまちの学校よりもリベラルであったのかもしれない。そう思いたい。植民地北海道のはずれのあのまちには実績をあげて出世を願うやからが多かったのかもしれない。
 本土決戦での北部防衛のための兵站基地となったあのまちでは、軍事機密防衛の名目で過剰なまでに統制意識が強まっていて、そのことが学校教育にも反映されていたのかもしれない。その点では滋賀県も同じではなかったか。どこが違っていたのか、時間をかけて考えてみたいと思う。
IMG_0002.jpg しかしながら、博物館学芸員が編集した解説冊子の記述には賛成しかねる。この展示を企画した意図を高く評価しながらも、戦争の最終段階での最高指導者たちの狂気の統制が学校に及んでいた現実が正確に示されていないからだ。そのために事実を見誤ることにもなる。冊子11ページに学級写真が載っている。この写真はどうみても戦時下の写真ではない。何の注釈もつけずにこの写真を載せたということは、この写真戦時下のものと解釈していたということだろうか。戦時下教育にはこの写真に写されているような「自由」はあり得なかった。絵日記もその枠組みの中でのものであった。
 絵日記は1945年(昭和20年)3月で終わったという。学年が変わる時期だったからだろう。この頃の戦況はというと、方々の守備隊の玉砕に続き、沖縄戦が始まり、東京を始め都市空襲も激しくなっていた。あのまま戦争が続けば、近い将来に女子生徒を待っていたのは、男子生徒と同様過酷な生活であった。高等科や高等女学校に進学すれば勤労動員という強制労働が、15才の分岐点を超えると女子挺身隊への動員が確実に待っていた。家庭に入れば、割烹着を着てたすきを掛けるや人格が急変する国防婦人会が待っていた。「大和撫子」の美徳を教え込む余裕などとっくになくなっていた。「子どもたちの豊かな表現力や文化を育てたい」という絵日記を書かせた狙いは、狂気の時代状況によってとっくに否定されていたのだ。(2014.11.4)

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